[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。



電車がないから帰れないという旨まで話して、兄さんの返事を待つ。


暫くして、兄さんがため息と共に自分らで何とかしろと言ってくれた。


「……いいの?」


『いいよ。こっちは何とかするから。あ、怪しい奴にはついてくなよ』


「ありがとう、兄さん」


こんなに簡単に許可を貰えるとは思わなかったから、拍子抜けだ。


ホッと安堵して功の方を見る。


少し離れた所からこちらを窺い見ていた功にグッと親指を立てると、功は驚いたように目を丸くした。


『じゃ、達者でな』


プツリと一方的に通話を切られて、功のもとへ駆け寄る。



「思ったんだけどさ」


「うん?」


「そこのコンビ二で充電器買えば良かったよな」


チラッと功が視線をやったのは、さっきアイスを買ったコンビ二。


そうじゃん………すっかり忘れてた。


早く言ってよ、と言いたいところだけれど、功も気付いていなかったんだろう。


もう過ぎた事を言っても仕方がない。


一夜だけ…一夜だけ許された逃避行だ。


余計な事は忘れていこう、今度こそ。