[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。



「んー…」


何か考え込んだあと、功がサッと携帯を操作してわたしに向き直る。


「とりあえず、俺は友達ん家に泊まる事にしたけど、お前どうすんの?」


「どうするもこうするもないよ…どうしよう…」


友達はいる事には…いる。


後で根掘り葉掘り聞かれようがそれは構わないけれど、普段泊まりなんてしないわたしが急にそんな連絡をして、両親がはいそうですかと了承してくれるかというと…ないだろう。絶対に。


「とりあえず…何とかしてみます」


携帯を握り締めて、思い付く限りの言い訳を考えて、いざ電話を…


…つかない?

電源がつかない。


「あああ!!」


「うおっ!何だよ、どうした!」


突然大声を出したから驚いて飛び上がった功の肩を掴んで揺する。


「充電ない…昨日、忘れてた」


「はあ!?」


本当は忘れてたんじゃない。


逃避行で余計な事を考えないようにと充電をしなかったのだ。


すっかり忘れていた。


それを言うとうるさくなりそうだから、充電自体を忘れていたという事にしておいて…


「じゃあ俺の携帯使っていいから、番号わかる?」


「わかる……けど、友達のはわかんない」


家の電話番号の覚えている。


親のは覚えていないけれど、家に誰かしらいるだろうし。