「…──」


産毛を逆撫でるような彼の声が耳許にまで上ってくる。


柔らかで上質な羽毛が肌を撫で、神経にまで到達する、そんな感覚。

けれど今私と触れ合っているのは、無機質なそれではなく、温もりを持った彼の手と声。


ここに在るのは確かに彼だ。

別の誰かではない。


いつも心の真ん中にいる彼を塗り潰すように、ズカズカと土足で侵入しては私にアイシテルと囁くあの人じゃないんだ。


そう思える瞬間が、何にも変え難い程に幸せで。

けれどそんな一握りの幸せさえも叩き落とすように。


「愛してる」


世界で一番残酷な優しい響きが、冷たい部屋に落ちた。





--Dreamy……夢見るような

『あと少し、夢を見させて』