[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。



「逃げ道を用意する事をずるいとは言わない。俺、お前の事ちゃんと見てるし、これからもずっと目逸らしたりしない」


ここで、逃げ道を作っておくのはずるい事だって、わたしを焚き付けてくれたのなら。


1人で意地張って、徹夜で勉強して、予備校にも通ったのにさ。


なんで、こんな人なんだろう。


「駄目だったら、さっきの夢を俺がここで叶えてやるからさ」


「さっきのって」


「米作りの手伝いしてのんびり暮らすってやつ。案外現実的だろ?」


また表情をガラリと変えて、功がおどけて見せる。


非現実的だよ、何言ってんの。


そうは思っても、こみ上げる笑いを堪えきれない。


2人揃って吹き出した時だった。


ポツリポツリと、空から雫が落ちてくる。


それは瞬く間に激しさを増して、地面にぶつかっては跳ね上がった。


「やっべ、夕立ち!?さすが田舎!」


「ちょ、それは偏見!」


慌てて駅のホームに走り込んだものの、ここからが問題だ。


「どうすんのこれ………」


すぐそこの田んぼがぼやけて見えるほどの雨。


夕立ちってレベルじゃない。