既に少し溶け始めたアイスをかじりながら、ぼんやりと田んぼを眺める。
何もないなあ。
逃避行の場所としては最適だ。
人の目が少ないから、怯えなくていいし。
ただ、なんだか少し物足りないけれど。
「ここら辺なら土地とか安そうじゃね?」
「はあ?」
何をまた突拍子もない事を…
わたしの呆れ目を無視して、八重歯でアイスを割りながら、功は続けた。
「もういっそここに住み着くとかどうですか、お嬢さん?」
「ばっかじゃないの?あんたお金ないじゃん」
「おー。アイス買ったら俺の全財産は残り60円!」
功は胸を張るけれど、それは威張る事じゃない。
そんなのでよく帰りの電車賃に悩めたね。
悩む間もなく、足りないってわかるでしょ。
…なんか、考えないようにしようとすると、余計に“帰り”を意識してしまう。
他に考える事がないからかな。
なら、功が言う、その全然現実的じゃない未来を想像してみようか。



