好きになってはいけない人なんていないと思っていた。

想い合えば、越えられないものなどないと、疑わなかった。

君が頬を染めて僕を見上げ、恥ずかしそうにはにかむと、それが幸せなのだと信じられた。


けれど、僕の想いも君の想いも、大きなものの前ではどうしようもなく、ちっぽけで、無力で。

そして、僕らはそれに逆らう術を知らなかった。



「寂しくなるな」


木漏れ日の下で、穏やかな陽気とは不釣り合いの暗い声を漏らす。

意図した訳ではないけれど、無理に明るく声を張る事は、今の僕には到底出来なかった。


寂しくなるな、なんて、そんな言葉に収めてしまえる程度の想いじゃない。

胸の内から溢れ出して、血液に溶け込み全身を巡る劣情を抑え込もうと、僕は自分を抱き込むように回した腕に力を込めた。


君はコクリと力無く頷いて、空を仰ぐ。

秋晴れ、だった。清々しいまでの。


ついこの間まで、じわりと肌に滲む汗を不快に感じていたのに、吹き抜けた風に秋を感じると、少し懐かしい気がした。

君の白い肌に映えた薄い桃色のワンピースを思い出して、切なさに似ているけれど少し違う感情が込み上げる。


肌の下を猛スピードで巡り回る劣情とは別の、もっと澄んでいて綺麗な感情。


君を想えば、いつもそうだった。

目に映る景色が輝いて、触れたものの温もりを感じて、胸に巣食う不安は安らいだ。


そんな日々が続くと思っていた。君も、僕も。