「来なくてもいいとか、そんなのじゃなくて。何も変わらないんだって話」


乾いた笑い声。ハスキーボイスというと聞こえはいいけれど、要するに嗄れているだけ。

喫煙のせいで少し掠れた声が、ノイズを走らせたようにも聞こえた。


「変わらないって…」


--何が?


そう問いかけようとして、やめた。


きっと、私と彼の関係が変わりはしないという返答に、後悔をするから。


ならやっぱり、朝なんて来ても来なくても変わらない。


何も、変わらないんだ。


彼がのそりと動く気配がして、その姿を目で追う。


ベッドの、下。


床に広げたぺたんこの蒲団に寝そべる彼と目が合った。


「おいで」


言葉だけが、冷たい部屋に落とされる。


言葉と共に腕を拡げでもしてくれたのなら、私はそこに、飛び込んでいけるのに。

選択権はあくまでも私に委ねられるから、躊躇ってしまう。


しばらく思案した後、体を転がして床に落ちる。

自重がかかってもさほど痛くはない。


それはきっと、この蒲団のおかげ。


自分で掛蒲団を押し開けて中に忍び込む。


煙草の匂い。

彼の匂い。


ひょっこりと顔を覗かせると、息のかかる距離で彼が笑った。