きみと空の間に
アイが咲きますように。
◇
双子なのに、体が弱いのはあいつだけだった。
人一倍元気で、怪我はするけど病気はしないのが俺。
人一倍病弱で、病気は増えていくけど怪我はしないのがあいつ。
きみと、ふたりであいつにしてやれることをいつも、内緒話をするように耳元で囁きあっていた。
あいつがその様子を見ていることは、俺だけが知っていた。
退屈な病室での日々に、あいつはいつも旅の雑誌を広げていた。
付箋だらけの雑誌。水色の付箋は特別だった。
きみは、それを覚えていて。
あいつの行きたい場所に、三人で、と約束をした。
その約束を知っていたのは、俺ときみだけ。
あいつには内緒で、連れて行くつもりだった。
十六歳の、夏。
花火大会の日。
暗い空の色は、俺ときみの心の色のようだった。
血の気を失くした顔で、瞬きひとつせずに、窓の外を見るあいつの肩を、ふたりで支えていた。
空に花が咲いて、一際目映い光が散る瞬間でさえ、あいつは瞬きをしなかった。
夜が更けて、朝が来て、雲一つない空を見ることなく、あいつは俺ときみを置いていった。
あいつが最後に見た空の色が、黒色ではなく、鮮やかな花の色であることを祈るばかりだった。
「あいつは、この空にはいないよ」
真昼間の青い空にもいない。
花が咲いた、あの空を誰よりも目に焼き付けて閉じ込めていたのは、あいつだから。
「行こう」
夏の夜にだって、いつもいるわけじゃない。
花の咲く夜に、あいつがいる。
来た道を歩いて、車に乗り込んで、目的の場所へ向かう間、きみはずっと俯いていた。
俺もきみも、一言も声を発しなかった。



