きみと空の間に

アイが咲きますように。





双子なのに、体が弱いのはあいつだけだった。


人一倍元気で、怪我はするけど病気はしないのが俺。

人一倍病弱で、病気は増えていくけど怪我はしないのがあいつ。


きみと、ふたりであいつにしてやれることをいつも、内緒話をするように耳元で囁きあっていた。

あいつがその様子を見ていることは、俺だけが知っていた。


退屈な病室での日々に、あいつはいつも旅の雑誌を広げていた。

付箋だらけの雑誌。水色の付箋は特別だった。


きみは、それを覚えていて。

あいつの行きたい場所に、三人で、と約束をした。


その約束を知っていたのは、俺ときみだけ。

あいつには内緒で、連れて行くつもりだった。


十六歳の、夏。


花火大会の日。


暗い空の色は、俺ときみの心の色のようだった。


血の気を失くした顔で、瞬きひとつせずに、窓の外を見るあいつの肩を、ふたりで支えていた。


空に花が咲いて、一際目映い光が散る瞬間でさえ、あいつは瞬きをしなかった。


夜が更けて、朝が来て、雲一つない空を見ることなく、あいつは俺ときみを置いていった。

あいつが最後に見た空の色が、黒色ではなく、鮮やかな花の色であることを祈るばかりだった。


「あいつは、この空にはいないよ」


真昼間の青い空にもいない。


花が咲いた、あの空を誰よりも目に焼き付けて閉じ込めていたのは、あいつだから。


「行こう」


夏の夜にだって、いつもいるわけじゃない。

花の咲く夜に、あいつがいる。


来た道を歩いて、車に乗り込んで、目的の場所へ向かう間、きみはずっと俯いていた。

俺もきみも、一言も声を発しなかった。