「ねえ、お姉ちゃん。あの人のこと、愛してる?」


確かにふたりの間を満たしていた幸せの色が、鈍色に染まっていくころ、お姉ちゃんの薬指から指輪が抜け落ちていることに気付いたのは、あの人よりもわたしが先だった。


街中で見かけたわけじゃない。

お姉ちゃんの身体から、衣服から、嗅ぎ慣れないかおりがしたわけでもない。


それでも、もうあの頃のような色を見ることは出来ないのだと、気付いてしまった。


あの人には、言えなかった。

お姉ちゃんも、結局何もきちんと終わらせないまま、逝ってしまった。


冷たくなったお姉ちゃんの左手を握らせまいと、駆け付けたあの人の顔も見ないまま、両手で指輪のない薬指を覆い隠した。


あの人は、なにも知らない。


いつかは許せると思っていた。

けれど、やっぱり、許せなかった。

そして、耐えきれなかった。


醜くて、浅慮で、馬鹿で、卑しい。

そんな、お姉ちゃんのことを。


真実を知らないからお姉ちゃんを愛せているのだってことがわからないあの人のことを。


「お姉ちゃんのこと、愛してた?」


隣に眠るその人の薬指を撫でた。

指の付け根には、銀の指輪が光る。

相変わらず、胸元に別の指輪を垂らしたままで。


「……おしえてよ」


縋るように寄り添った胸に流れた金属が頬に触れて、なぜだかすごく、苦しかった。



( せめて、あなただけは許したい )