許せなかったんだと思う。

許したかったのかも、わからないけれど。


頼んだのはわたしで、ワガママを貫いたのもわたしで、困らせたのもわたしなのに。

最後まで、許せなかった。


いつかは認められるはずだと、許せるはずだと、愛おしく思うことも包み込むこともできる想いだと思っていた。


まだお姉ちゃんが生きていた頃、ふたりの間に満ちていた、泣きたくなるほどの幸せの色を、いつかわたしとあの人にも描ける日が来ると信じてた。


あの人がわたしに気を使って、だけどいつも肌身離さずに胸元にぶら下げていた指輪を何度引きちぎってやろうと思ったか。

あの人の腕に抱かれて、平たい腹に冷たい汗が落ちる度に、ぎゅっとかたく瞼を閉じた。

わたしを見下ろすその目が何を見ているのか、それを知るのが怖かった。


一度だって、あの人はわたしにお姉ちゃんを重ねなかった。

あの人が日付を跨いで帰宅した早朝、その起き抜けに聞いたくぐもった声でさえ、わたしの名前を呼んでくれた。

それが、どうしようもなく悲しかった。


わたしだって、ふたり一緒にいて欲しかった。

だけど、他の人に取られるくらいなら、わたしがあの人を欲しかった。

譲ってもいいと思えたのは、お姉ちゃんだけだったから。


形あるものはいつか壊れるというけれど、形ないものが壊れるときは、いつもヒビ割れてしまう前に内側が脆く綻びきってしまっている。

だから、一筋の亀裂が走ったとき、わたしは内側を覗いて見た。

これからどうするべきなのかは、もう疲れ切った心に託すべきじゃないと思ったから。


返してあげると、決めた。

わたしが背中に隠し続けたお姉ちゃんを、あの人に。


あの人がお姉ちゃんを望むのなら、そうしてあげたい。