「お、おい……。お前、何モノだ」

 守道が毛玉に問う。
 右手は印を結んでいる。

 まだ毛玉が何かもわからない。
 万が一攻撃してきたら、いつでも対応できる状態は崩さない。
 だがそんな守道の慎重さをぶった切る勢いで、御魂がむんずと毛玉を掴んだ。

「退かぬか。お前に構っている場合ではない」

 ぽい、とそのまま、自分の背後に毛玉を投げる。
 あまりの乱暴さに、守道が引いた。

「うぬ。守道、手を貸せ」

 本身は龍でも、人型であれば力は出ないのか。
 御魂は章親の腕を己の肩に回し、立ち上がろうと奮闘している。

 守道は手を貸そうとし、躊躇った。
 二人とも章親にかかりきりになると、その隙を毛玉に突かれる恐れがある。
 と、そんな守道の懸念を読んだように、御魂が口を開いた。

「多分大丈夫であろ。章親が身を挺して庇ったのじゃ。悪いモノではあるまい」

「まぁ……それはそうでしょうが」

 昔から章親を知っている守道はもちろん、御魂も章親の能力のことは十分理解しているのだ。
 章親が庇うのであれば、悪いモノではない。

 守道もそこは疑うことはないが、正体のわからないモノを放置するのも躊躇われる。
 ちらりと転がる毛玉に目を向けた。

「怪しいモノを、宮様がお成りになるとわかっている地に置いておくわけにはいかない」

 ぴ、と印を結んだ指に、護符を挟んで構える。
 一瞬場が緊迫したが、またそれを打ち砕くように、御魂は軽く手を振った。

「放っておいても、そ奴は我らを追って来よう。とにかく今は、そ奴よりも章親が心配じゃ。ほれ、さっさと手を貸さぬか」

 何故か不自然に『章親が心配』の部分を強調する。
 そしておそらく御魂の読み通り、ぴく、と毛玉が反応した。

 守道が疑問を投げる前に、御魂は彼を急かして章親を押し付けた。