諸々の法は影と像の如し

「う~ん……。御魂様の、個人的なお名前ってのはないの?」

「何故じゃ」

「だって婆素鶏って、御魂様だけじゃないんでしょ?」

「……そんな、個人的な名など……気にしたことはなかったな」

 ちょん、と階に座り、呟くように言う。
 何となく寂しそうに見え、章親は引いていた身体を戻し、自分も階の、御魂の少し上に座った。

---そうだな……。自分の名前がないっていうのは、ちょっと寂しいことなのかも---

 名がない、ということは、誰にも呼ばれない、ということだ。
 名は己の存在を示すものである。
 名がないというのは存在がない、ということになりかねない。

 だから陰陽師は、名であらゆるものを縛るのだ。
 存在を、その場の留める、ということである。

---契約とか、縛るっていうのは嫌いだけど……。やっぱり名を呼ばれたら嬉しいものだものね---

 章親も自分の式に名を与えているが、それによって式を縛っている、という感覚はない。
 だから強制的に付けるようなことはせず、出来るだけ式が希望する名前を付けてやる。
 当人同士が意識していなくても、やはり名を与えることで契約は成されているのだが、呼ばれるたびに嫌な思いをするよりも、お互い気持ちよく過ごしたいではないか。