と、いきなり、わっとどよめきが起こった。
 はっと前を見ると、護摩壇の火が爆ぜている。
 何かが祓いに抵抗しているようだ。

 儀式を見ていた貴族たちは、我先にと逃げ出した。
 控えていた何人かの陰陽師も腰が引けている。

 そんな者らを嘲笑うかのように、炎が大きく爆ぜた。
 火の粉が辺りに飛び散り、護摩壇の近くにいた者らは、必死で着物を払った。

「守道……」

 前列から一歩踏み出し、守道は力強く呪を唱える。
 章親では守道の助けにはならないのだから、邪魔にならないためにも逃げたほうがいいだろう。

 そう思ったとき、いきなり火柱が上がった。
 それは崩れ落ちるように、逃げる者たちに襲い掛かる。
 章親の目に、火柱が己の上に崩れ落ちてくるのが見えた。

「章親!」

 守道の叫び声が聞こえると同時に、白い塊が飛んできた。
 守道の御魂だ。

 子供の姿の御魂は、一瞬で章親の前に回り込むと、姿を変えた。
 大きな白い狐。

 くわ、と口を開くと、鋭い牙で火柱を食いちぎる。
 火柱から、しゅわ、と黒い煙が上がり、苦し気な声がした。

「破っ!」

 守道が、印を結んだ手を突き出した。
 同時に火柱は霧散する。
 あとは元の清々しい空気が戻っていた。

「大丈夫か?」

 ぺたりと尻をついている章親に、守道が近付いて言う。
 章親を火柱から守った守道の御魂は、元の小さな子供に戻っていた。

「う、うん。ありがと」

 守道に手を引かれ、身体を起こしながら、章親は己の情けなさを痛感した。