「誠に申し訳もございません……。僕が至らないばっかりに、宮様に不名誉な噂が流れてしまって。でも物の怪憑きってだけで宮様を避けるだなんて。別に宮様は物の怪憑きじゃないし、物の怪っても皆が皆悪いものじゃないんです」

 少しでも元気づけようと言った言葉に、その辺の物の怪たちが、ぱちぱちと拍手する。
 ちなみに宮様には、物の怪たちは見えないようだ。
 小さな物の怪たちは力が弱いので、普通の者には見えないのだ。

「宮様が例え本当に物の怪憑きだとしても、僕はそれだけで宮様を避けたりしませんよ!」

 章親は陰陽師なのだから、物の怪憑きを避けていたら商売にならない、と言えばそれまでなのだが、そう言った章親に、宮様は扇の向こうから、嬉しそうに笑った。

「だからわたくしは、章親が好きなの」

 え、と章親が顔を上げる。
 あ、と宮様が、赤くなって俯いた。

「ほ、ほら。章親、優しいから。陰陽師だし、物の怪憑きでも変わりなく接してくれるでしょ?」

「え、ええ。もちろん」

 何だかお互い赤くなって、もごもごと言う。
 階から、にやにやと守道が二人を眺めた。

「ならば宮様。章親に降嫁なされるか?」

「んなっ! 守道っ! いきなり何言うの!」

「あれ、良いではありませぬか。物の怪憑きと噂が立ったのならこれ幸い、陰陽師に嫁ぐことに、誰も文句は言いますまい」

 茹蛸の二人に、毛玉も無邪気に賛成する。

「そうなれば、宮様はこちらに住まわれるんですかぁ? うわーい」

「まぁ我の主ともなれば、姫宮ぐらいの者を娶ってもおかしくないしのぅ」

 魔﨡までもが納得する。
 うう、と章親は頭を抱えた。

「全くほんとに、僕の周りは物の怪ばっかり……。宮様だって十分物の怪だよ」

「なぁんですってぇ?」

 小さな章親の呟きに、耳聡く宮様が反応する。
 きゃいきゃい、と騒ぐ章親らを、少し離れたところから、惟道はぼんやり見た。

 暖かい空気が満ちている。
 自分の中から、すっと清浄な水が湧き出るようで、心地よさに、惟道は僅かに口角を上げた。


*****終わり*****