「ま、まさか僕のせいで……」

 やはりお守りするためとはいえ、変に屋敷に留め置いたから、そういう噂が立ったのかと、章親は再び青くなった。
 だが宮様は、広げた扇の向こうから、は? という目を投げた。

「何で章親のせい? ていうかさ、まぁ当然よね。物の怪憑きの姫宮なんて、斎宮になれるわけないじゃない」

「物の怪憑き……?」

「内裏ではねぇ、わたくしに鬼が憑りついて、人を襲ったとか噂してんの」

「ええっ!」

 章親は思いっきり仰け反ったが、守道は知っていたらしく、あまり驚かなかった。

「そうではない、宮様は襲われそうになっただけだ、と否定したんですがね」

 守道は、さして怪我もしなかったので、鬼を退治した後、すぐに出仕していた。
 そこで宮様の噂を耳にしたのだと言う。

「退治した本人が言うのにさ、貴族ってのは退屈なのか、面白げに話を広げて、勝手に噂し合うのよ。蘆屋の術師のことなんか、誰も知らないわ」

 まぁわたくしも知らないけどね~、と軽く言う宮様を、相変わらず青い顔で章親が見つめる。

「宮様……。申し訳ございません」

 章親が頭を下げると、宮様はまた首を傾げた。

「だから、何で章親が謝るの?」

「宮様にそのように不名誉な噂が立ったのは、初めの時点で鬼を退治できなかったからでしょう? あそこでちゃんと対応しておけば、宮様が内裏から離れることもなく、身の潔白を証明できたではないですか」

「あなたたちは、ちゃんと対応してくれたわよ。あの後ここに留まったのは、わたくしの希望だしね。むしろわたくしは、鬼に感謝だわ。あの騒ぎが起こったお蔭で、あなたたちに会えたわけだし」

 扇の向こうから、にこりと笑う。