諸々の法は影と像の如し

 章親の視線の先で、惟道は、己の手に目を落とした。
 傷からの出血で、手の平は真っ赤だ。
 その手と鬼を見比べる。

「……目の前で餌自身が道を開いても、やはり九字紋で見えぬか」

 小さく呟く。
 鬼は惟道自身が血を流していても、そちらには目を向けない。

「……こ、惟道っ! 貴様、何てことを!!」

 ようやく止まっていた思考が動き出した道仙が、怒りに顔を歪めつつ、取り落していた扇を握りしめた。
 みし、と扇が軋む。

「主に向かって、何をするんじゃ!!」

 叫ぶや、道仙は怒りに任せて掴んだ扇を惟道に投げつけた。

 その瞬間。
 ぱし! と音がし、道仙を覆っていた強固な空気が割れたように見えた。
 まるで扇が中から突き破ったようだ。

 扇は惟道の額を打った。
 先に道仙が握りしめたときに扇の骨が折れていたようで、ささくれ立った何本かの骨が、惟道の額を深く抉る。
 ぶわ、と血が飛んだ。

「惟道殿!」

「ぎゃあああぁぁぁぁ!!」

 章親の声と、道仙の悲鳴が重なった。
 見ると、いつの間に飛び掛かったのか、鬼が道仙に食いついている。

「結界が破れたのか! 紺!」

 守道が簀子に駆け寄りながら、素早く印を結んだ。
 その横を、紺が駆け抜け、鬼に突っ込んでいく。

 章親は仰向けに倒れた惟道を助け起こした。
 額から流れた血で、顔が真っ赤になっている。