相変わらず蘆屋屋敷はひっそりしていた。
 牛車も見当たらないということは、水盆で見た客人は帰ったということか。

「道仙に、どう言うつもりだ?」

 守道が、屋敷の門を見上げながら、傍らの章親に言った。
 章親は小さな護符を門柱に貼りながら、う~ん、と考える。

 魔﨡はやはり宮様の傍を離れるわけにはいかないので、今日も退路は確保しておかねばならない。
 章親だって敵陣に魔﨡なしで乗り込むのは嫌なのだ。

 呼べばすぐに来てくれる、という確信があるからこそ、一人でこのようなところまで来られる。
 そのためには道を確保しておかねば。

「屋敷に穢れを持ち込もうとしたことの苦情……とか?」

「ああ……まぁそんなところかなぁ」

 それぐらいしか思いつかない。
 二人で悩んでいると、惟道がさっさと門を潜って入って行った。

「あ、ちょ、ちょっと待ってよ。いきなり案内も乞わずに入るわけには……」

「案内を乞うたところで、対応するのは俺だ」

 素っ気なく言い、そのまま歩いて行く。
 つまり対応する人間が出てきているのだから、このまま入っても同じこと、ということか。

 ん~、と躊躇う章親の横を、守道がするりと抜けて、惟道の後に続いた。
 結局章親も、守道を追って蘆屋屋敷に入って行った。