諸々の法は影と像の如し

「何で君は、そんなに全てのことに興味がないのかな」

 章親が言うと、惟道はちょっと怪訝な顔をした。

「人のことにも自分のことにも、全く興味がないよね。何がどうなっても、どうでもいいみたい。他のことに関してはともかくさ、自分のことには、もうちょっと執着するもんじゃない? 鬼に襲われそうになったら、必死で抵抗するのが普通だよ? 誰しも死ぬのは怖いもの。でも君は、それすらもない。君の心を何かが占めることはないのかな。空っぽに思えるよ」

 章親の言いたいことがわかったのか、はたまた何かが心に響いたのか。
 惟道は目を見開いて、章親を見つめた。

 綺麗な、漆黒の瞳。
 そういえば、声も澄んでいた。

 惟道自身には、全く穢れというものがない。
 だから余計に、魔に染まりやすいのだ。

「そうか。道満殿は、君のその能力を見抜いたんだ」

 人にはあり得ない、空(から)の心。
 依巫(よりまし)には打ってつけだが、扱う術師に相当な技量が求められる。

 空であればあるほど様々なものを降ろすことが出来るが、降ろしたものにも染まりやすい。
 降ろしたものを完全に出してしまい、且つ依巫に負担をかけないようにするなど、並の術師に出来ることではない。
 そもそもそのような依巫、いないのが現状なのだ。

「道満殿は、君を依巫として使っていたんだね」

「だがそのようなことは、滅多になさらなかった。まず身を守るための術師の基礎を教え、俺が自分で呪を施せるようになってから、さらに結界を用いた上で俺を使った。中のモノが完全に消えるまでは、決して無理をさせなかった」

 道満のことになると饒舌になる。
 よほど道満を慕っていたようだ。