諸々の法は影と像の如し

「ねぇ。わたくしが式部卿の姫君を殺さないでって言ったら、聞いてくださる?」

「……別に俺はどうでもいいが」

「でも道仙に言われたら、殺しちゃう?」

「どうだろう」

 少し、惟道が首を傾げた。
 え、と章親は惟道を見る。
 宮様のお願いなら、聞けるのだろうか。

「君にとって、道仙殿の命令は、絶対じゃないんだね?」

 なら話は早い、と思った章親だったが、惟道はまた冷たい視線を投げた。

「知らぬ。逆らったことなどないだけだ」

 つまり、今まで特に逆らおうと思ったことがないのだろう。

「でも、道仙殿の言う通りにしてたら、人が死んじゃうって思ったら、止めようと思わない?」

「その者が死んだところで、俺には何の影響もない」

 さらっと言う。
 さらに。

「俺が飯を食うように、鬼にも飯が必要だろう」

 当たり前のように言う。
 章親も守道も、呆気に取られた。

「お、お前は自分が絶対に鬼に食われないとわかっているから、そんなことが言えるんだ! その九字紋がなければ、真っ先に食われているのはお前なんだぞ!」

 守道が怒鳴る。

「鬼のための飯だと言うなら、本来の狙いであるお前が己の身を差し出せばどうなんだ!」

「それが出来るのであれば、別にそれでも構わん」

 静かに惟道が言う。
 やはり惟道は普通でない、と、章親は悲しくなった。

 惟道にとって他人はもちろん、己の身さえ、どうでもいいのだ。
 人の形をしているが、中身は空洞のよう。
 おそらく九字紋が消えて、鬼が惟道に襲い掛かっても、今と変わらず平然と食われるのだろう。