諸々の法は影と像の如し

「何をしたのだ」

 守道の問いに、惟道は元の能面に戻って、しれっと答えた。

「あの姫君の侍女を鬼に食わせて、その死体を見せたのだ」

 さぁっと章親の顔から血の気が引いた。
 鬼に食われた死体は見たことがないが、噂では聞いている。

 綺麗さっぱり何も残さず食べるわけではない。
 まさに『食い散らかす』感じだとか。

 身体の一部を食い破られた死体など、想像しただけで恐ろしい。
 ましてそれが己の良く知る者だったりしたら……。

「何故そのようなことを……」

「式部卿というのは、宮家の人間なのだろう? 俺はよく知らんが、宮家の人間であれば、内裏に参内することもあろうと、道仙がこの姫君を誑し込んだのだ」

「内裏……? 真の狙いはそこか」

 いきり立つ守道とは反対に、惟道は淡々と答え、こくりと頷いた。

「式部卿の姫君を誑し込んだのは大したものだが、残念だったな。式部卿という役職は閑職だ。内裏に上がることなど、そうそうないだろうよ」

 守道が、どすんと立てていた膝を折って、腰を下ろした。

「そのようだな。所詮宮中のことなど何一つ知らぬ。まぁ知っていても、道仙が近付ける貴族など、その程度の者だろうよ」

 守道の物言いに怒るでもなく、惟道は水面に落としていた目を上げた。
 水盆の中では、縋る姫君をそのままに、道仙が部屋から出て行く。
 その行く先を見、惟道は、道仙が己を探しているのだと気付いた。