諸々の法は影と像の如し

『……でも、このままでは恐ろしくて……』

『何、ご心配には及びませぬ。あの小者は、わしの犬ですから』

『あの者が、侍女を殺したのでしょう?』

『ええ。あれに頭脳はありませぬ故、わしが一声かければ、何にでも食いつきます』

 ひぃ、と小さく、姫君の悲鳴が聞こえた。

『あなた様も犬に食われたくなければ、わしの言う通りに動いてくだされ』

 道仙が、ずいっと姫君に顔を寄せて言った。

「えーと? 姫君の侍女を殺したのって……? 何にでも食いつく犬ってのは……」

 何となく道仙の言い方から、惟道のことだろうと思ったが、これではまるで惟道自身が食いつく物の怪のようだ。
 ちらりと惟道を見た章親は、ぎくっとした。
 無表情は変わらないが、惟道の瞳の闇が深くなったようだ。

「あいつ……。どこまで俺を馬鹿にするんだ……」

 初めて、惟道が怒りを露わにした。
 その瞳は暗く冷たいが、章親は、何故か少し安心した。
 初めて人らしいところを見た気がしたからである。

「式部卿の姫君の病は、お前が仕組んだことだったのか!」

 守道が、惟道の胸ぐらを掴む。
 あわわ、と章親が腰を浮かせた。

「ちょ、ちょっと。さっき病ではないって言ったじゃない。それに、全ての黒幕は道仙殿だよ」

 章親の制止に、守道は舌打ちして手を放した。
 そして水面を覗き込む。

 そこに映る姫君は、すっかり憔悴して老婆のようだ。
 そんな歳でもなかったはずだが。

 確か病になったと聞いたのは、かなり前だったから、その間に衰えていったのだろう。
 相当な恐怖を植え付けられたようだ。