諸々の法は影と像の如し

「あっ……。ちょ、ちょっと待って!」

 何となく恐ろしい方向へ進みそうだった空気を破り、章親は惟道の手を押さえると、楓を呼んだ。
 察した楓が、すぐに水盆を持ってくる。

「どうした?」

 守道が、章親の前の水盆を覗き込んだ。

「式が、ようやく道仙殿の行動を掴んだみたい。何か動きがあったのかも」

 言ってしまってから、あ、と章親は口を押えた。
 蘆屋の家の者である惟道の前で、屋敷に式を放ったとか言ったら、良い気はしないだろう。
 だが惟道は、相変わらずの無表情で、ちらりと水盆に視線を落とした。

「来る途中に会ったわりには、時間がかかったな」

 ぼそ、と言う。
 どうやら惟道は、ここに来る途中で式を見つけたらしい。
 だがそのまま放っておいたのか。

「自分のお家に行くとは思ってなかったの?」

「お主が作った式であれば、蘆屋の屋敷に行くだろう」

「でもそのまま行かせたの?」

「別に俺はおらぬし、道仙のことなど探られても構わぬ」

「そう……」

 微妙な顔で、章親は水盆の水面に手を翳し、小さく呪を唱えた。
 ゆら、と水面が揺れ、ぼんやりと、ある景色が映る。

「……道仙の部屋か」

 そう言った惟道の目が細くなった。
 どうやら来客中らしい。

「女?」

 守道が、驚いた声を出す。
 水面に映し出された道仙の前に、女子がいるのだ。
 しかも、身なりからして結構な身分のようだ。

 のわりに、他に女子の姿はない。
 今は朝だが、このように身分の高い女子が供も連れずに男の元を訪れるなどあり得ない。