諸々の法は影と像の如し

「え、じゃあ道仙殿が、人食い鬼を召喚したの?」

 信じられない、と言いたいところを、章親はぐっと堪えた。
 が、守道は気遣いなく口にする。

「道仙には、そんな力はないのだろ? 確かに無能っぽかった。そんな奴が、あんな鬼を召喚出来るとは思えんな」

 人の主を無能て! と内心焦った章親だが、惟道は特に反応しない。
 そもそも先程から主であると認めてはいるものの、惟道は道仙のことなど全く良く言わないのだが。

「道満殿が、播磨で見つけた古い古文書を、奴が試した」

「古文書?」

「西のほうには、鬼の話が多いしな。ある寺から調査を依頼されたのだと思う。道満殿は、その中で、こういう怪しげなものを見つけ、悪用されないよう保管していたのだろう」

「なるほど。それを、道仙が手に入れたわけか」

 ふむ、と守道は頷いた。
 ならその古文書を見れば、鬼の祓い方もわかるかもしれない。

「その古文書は、今も道仙の元にあるのか?」

 守道が問うと、惟道は僅かに首を傾げた。

「さぁ」

「って、お前。自分の身を使われたんだろ? 何とかしようと思わなかったのか?」

「何の力もない俺に、何が出来るというのだ」

 鬼の印を施し、呪をかけて鬼を召喚したのであれば、惟道は餌にされたのではないか?
 鬼の本当の狙いが惟道である、ということからしても裏付けられる。

 なのに何故惟道はそれに対して何の反応もないのだろう。
 何とかして己にかけられた呪を解こうとするのが普通ではないのか?
 その元となった古文書を読み漁るぐらいはしないものだろうか。