己は鬼に襲われることはない、と道仙自身思っていても、はたして護符に練り込んだ己の血の効果は永久なのか。
 本当に自分に穢れが付いても何ともないのか試す度胸もない。

 なので、道仙は用心に用心を重ねて、絶対に惟道の血は浴びないようにしている。
 肝が小さいのだ。
 お蔭で怪我をするほど折檻されることもないので、惟道にとってはありがたいことなのだが。

 そんなことを考えながら、ぶらぶら歩いていた惟道は、ふと顔を上げた。
 前方からひらひらと、蝶が飛んでくる。

 じ、とそれを見つめる惟道の頭上を一周し、蝶はそのまま惟道の歩いて来た方向へ去って行く。

「……」

 蝶を見送り、惟道は顔を戻した。
 この先には安倍の屋敷がある。

 先の蝶は式神だ。
 惟道が歩いて来た方向へ飛んで行ったということは、蘆屋屋敷へ行くのかもしれない。

 昨日の今日だ、当たり前か、と思い、そのまま惟道は歩き出した。
 道仙であれば、あのように精巧に作られた式には気付かないだろう。