「わからんな……。鬼が自分でその者を避けているわけではないのだろう? おそらくこの鬼は、人が召喚できる程度の悪鬼だ。そのようなものに、人の命を聞く能力はないだろう。だとすると、その者に襲えない何かがある、ということだが」

 う~む、と再度呟き、黙り込む。
 そのとき、簀子をさらさらと衣擦れの音が近付いてきた。
 そしてすぐに、ひょい、と宮様が部屋に入ってくる。

「み、宮様っ! 何をしておいでです!」

 すでに日は暮れつつある。
 帰って来てから鬼の手を前に、吉平と守道と三人で話し込んでいたのだ。

 章親は魔﨡にもいて欲しかったのだが、同じ屋敷内に宮様がいる以上、宮様をお守りせねばならない。
 なので魔﨡は帰って来てからは宮様の傍にいたのだが。

「だって退屈だったんですもの。章親たちがいない間はお部屋を抜け出そうとすると毛玉がうるさいしさぁ。帰って来たと思ったら三人で籠っちゃうし。魔﨡に何やってんのか聞いたら、鬼の手を持ち帰ったって言うじゃない」

 狼狽える章親も気にせず、宮様はずかずかと部屋の奥に進み、結界内の鬼の手を覗き込んだ。
 その後ろから、魔﨡も入ってくる。

「ちょっと魔﨡。宮様をお連れしちゃ駄目じゃない」

 章親が魔﨡に駆け寄って言うと、魔﨡は不満そうに口をひん曲げた。

「宮が見たいと言ったんじゃ。それに、宮がここにおれば、我は章親の傍にいれる。お主だって安心じゃろ」