「ふーん。でもまぁ、女房も多ければいいってもんでもないものね。強い御魂? だっけ、がいれば、何かあっても安心だし」

 軽く言い、宮様は前を歩く吉平を、ちょいちょいと手招きした。

「てことで、私は安倍家に行くから。いいでしょう?」

「い、いえその。いきなりそのようなことを仰せられましても……」

「陰陽の頭が宮中に取り次げばいいでしょう。大体、私は実際鬼に襲われてるんだから、その穢れを取るために、陰陽師の家に行くのはおかしなことではないでしょ。穢れを付けたまま内裏に入るわけにはいかないとでも言っておきなさい」

 びし、と言い、宮様はようやくするすると御簾を降ろした。
 外の男三人は唖然としたが、吉平はこの宮様の性格を知っているのか、早々にため息をついて諦めたように章親を見た。

「まぁ、確かに鬼が現れたのは皆が見ている。宮様の言い分も、皆納得するだろう。穢れの件は、付いている、とも思えんが、まだあの鬼が何かもわかってないし、穢れだけに反応するかどうかもわからんしな。宮様を当家にお迎えするのも、いいやもしれん」

「父上っ。本気ですか?」

 魔﨡が二人になる、と焦る章親に、吉平は苦笑いをこぼしつつも、ぽん、と肩を叩いた。

「とりあえず、気安い宮様で良かったではないか。家には姫がおらぬ故、宮様には何かと不都合もあろうが、そこはほれ、章親が何なりと相談に乗って差し上げなさい」

「そそそっそんなっ!」

「宮様も、周りに同じ年頃の子がおらぬで寂しかったのやもしれぬぞ? ご自身で仰ったように、お上にも忘れられたようなお立場だし。宮中に呼ばれたのは斎宮に選ばれてから。それまでは嵯峨野の小宮で育ったのだから」

 う、と章親が口を噤んだ。
 やはり、吉平は宮様のことを知っていたのだ。

 黙った章親の肩を再度叩き、吉平は内裏のほうへと歩いて行った。