「今のうちに、この人の手当てを」

 腰が引けている他の検非違使たちに声をかけ、章親は注意深く辺りの気を探る。
 他にもあの穢れがあったら大変だ。

「章親っ。血が付いておるぞ」

 とにかく宮様は死守しなければならないため、宮様の周りを見ていた章親に、魔﨡が声を上げた。

「あ、大丈夫だよ。これは、さっきの人の血が付いただけ……」

 章親は直衣についた血に目を落とした。
 そして、あることに気付く。

 以前毛玉が見つけた小石にも、血が付いていた。
 血が付いていたから、その場の空気が穢れていたのだと思ったが、今この直衣に付いている血からは、妙な気は感じない。
 ただの人の血ではない、もっと強烈な闇のものの気配を、あの穢れからは感じるのだ。

---でもあの子はあくまで普通の人……だよね。なのにあの穢れと同じような印象を受けるってどういうことだろう。人じゃないの……? いや、あそこまで完璧に人に化けられる物の怪なんていないよ。気はどうしたって隠せないもの---

 う~んう~ん、と考えていた章親は、若干怯えた目で自分を見ている宮様に気付いて、慌てて膝をついた。

「あっ! も、申し訳ありませぬ! 血に汚れたまま宮様に近付くなど、無礼でした」

「何で章親が謝るんじゃ!」

 間髪入れず、章親と宮様の間の魔﨡が言う。