「魔﨡!!」

 章親が叫ぶのと、少し前の検非違使が悲鳴を上げるのはほぼ同時だった。
 闇溜まりから飛び出した小鬼が、検非違使に食らいついている。

 え、と章親は、少し拍子抜けした。
 てっきり鬼は宮様を襲うと思っていたのだ。

 章親に呼ばれた魔﨡も、宮様の前で、どこからか出した錫杖を構えている。
 惟道は気付かなかったが、宮様を先導していた巫女は、巫女に化けた魔﨡だったのだ。

 章親が呼んだら、まず宮様をお守りするように、と、くどいほど言い聞かせておいた。
 主に呼ばれたのに、何で関係ない者を守らねばならぬ、と不満たらたらの魔﨡は、章親が呼んだら当然のように章親の傍にすっ飛んで来そうだったのだ。

「……て、いやいや、ぼっとしてる場合じゃないよ」

 はた、と我に返り、章親は魔﨡に駆け寄った。
 場が騒然となっているので、宮様に近付くことになっても警護上問題ない。
 章親だって陰陽寮生なのだから。

「紺!」

 守道が一歩前に出つつ叫んだ。
 現れた紺が、牙を剥いて検非違使を襲う鬼に飛び掛かる。

 同時に守道も印を結んだ手を呪と共に突き出す。
 小鬼は素早く検非違使から離れ、木立の中に逃げ込んだ。

「大丈夫ですか?」

 倒れている検非違使を抱き起し、章親は検非違使もろとも、その辺り一帯を浄化した。
 あの小鬼は、ある一定の穢れを目指してきているようだ。
 ならば穢れを取り払えば大丈夫なはず。

 すぐに鬼が離れたため、検非違使も命に別状はなさそうだ。