---あいつもただ者ではないな---

 宮様に従っているのは、章親の父・吉平と守道である。
 周りに配置されている陰陽師たちも、見ればすぐにそれとわかるのだが、惟道は少し怪訝な顔をした。

 何となく、妙な気を感じるのだ。
 だがよく確認してみても、見える範囲には神社関係者と宮のお付き、あと陰陽師と検非違使しかいない。

---気のせいか?---

 別に惟道は気を見るに長けているわけではない。
 昔、道満に術を教わったこともあまりないのだ。

 惟道のこういった気を読む力や、ちょっとした術の類は、全て『何となく』で会得してきた。
 元々『器』だったので、術など必要ないのだ。

---まぁいい---

 計画に執着もないので、引っかかった気の追及はあっさり諦め、惟道はまず、小石を一つ向かい側の木に向かって投げた。
 枝に当たった小石は、跳ね返って参道の端の玉砂利を乱した。
 続けざまに二つ、同じように小石を投げ、玉砂利を乱していく。

 そのうち警備についていた検非違使が、飛んできた小石に気付いたようだ。
 きょろ、と周りを見渡し、乱れた玉砂利に屈み込む。
 惟道は一度反対方向の木に当てて石を投げ込んでいるので、惟道の潜む木のほうには誰も目を向けない。

 検非違使の一人は、乱れた玉砂利を手で直した。
 惟道の口角が、僅かに上がる。

 惟道の投げた小石は、玉砂利の中に入り込んだ。
 ということは、あの検非違使は小石に触れたということだ。
 検非違使に、穢れが付いたに違いない。

 さて、と惟道は枝に座り込むと、これから起こるであろう騒ぎを見物すべく、宮の行列を見つめた。