---でもまぁ、魔﨡は綺麗だから、それだけで許される部分もあるかな。喋ることもないだろうしね---

 そのとき、ふと章親は、向こうのほうから橋を渡ってくる人物に目を止めた。

---あれ?---

 見覚えがある。
 年齢的には章親と変わらないこの若者は、内裏の前で会った人物ではないだろうか。

 若者は章親の数歩手前で立ち止まった。
 そして、僅かに顔をしかめる。

「あの。えっと、よく会いますね」

 何となく気まずいのと、何故か相手のことが気になり、章親は若者に声をかけた。
 しばしの沈黙の後。

「……安倍の陰陽師殿か」

 静かに若者が口を開いた。

「え? 僕のこと、知ってるんですか」

 もしや知り合いか、とちょっと焦り、章親は少し身を乗り出した。
 が、若者は章親が前進した分後ろに下がる。
 どうも親しい知り合いではないようだ。

---ま、まぁね。僕はわかんないぐらいだし。何かの依頼時に会ったとかかも---

 何気に少々傷付きながらも、章親は若者を見た。
 しかしやはり覚えはない。

「あの。失礼ですけど……」

 これだけ見てもわからないのだから、本当にたまたまどこかで顔を見た程度なのだろうが、声をかけてしまった手前、この空気は耐えられない。
 とりあえず章親は、若者の名を促した。