道仙がそのような恐ろしいことに手を染めたのは、父・道満が都から追放されたことの恨みによるものだ。
 追放されたとはいえ、住み着いた播磨の地では重宝されたし、国守に乞われて術師としても活躍していた。

 道仙の兄も、特に恨みなど持たずに過ごしていたのに、道仙だけは都に返り咲くことを、ずっと思い続けていたようだ。
 そして鬼を飼う惟道を連れ、都に入り、宮中をめちゃくちゃにする計画を実行しつつあるのである。

 道仙のこの歪んだ性格は、章親の祖父・晴明と並び称された道満の子でありながら、大した能力がなかったことによるものかもしれない。
 自分で召喚しておいて、その鬼の本質も見極められない。
 惟道の血なくして鬼が勝手に動くことなどあり得ないのだ。



 さてどうするか。
 そもそも血を内裏に入れただけで、鬼が人を襲うことはない。
 鬼が入れるようにはなるが、それだけだ。

 血の穢れが付かない限り、人が襲われることはないのだ。

 しばらく木の上に座って内裏を見ていた惟道は、つい、と立ち上がった。
 枝を蹴って、地に降り立つ。

 惟道はそのままぶらぶらと、章親の去ったほうに歩いて行った。