「章親こそ、そんな急いでどこに行くつもりじゃ」

 思いっきり不機嫌な顔で、魔﨡がじろりと章親を見る。
 昨日はずっと今日の打ち合わせで、魔﨡は賀茂社に缶詰だったし、章親が屋敷に帰ったときにはすでにすっかりふて腐れて、前のように章親の部屋の奥を陣取って眠っていた。
 今日も朝早くから駆り出され、ろくに話をしていないのだ。

「僕は内裏に行っておくよ」

「ちょっと待たんかい」

 がばっと魔﨡が立ち上がり、ずかずかと階を降りてくる。

「我を置いて行くと言うのか」

「えっと、それはちゃんと言ったよね? 僕が内裏に行っても、呼べば魔﨡はすぐに来てくれるでしょ?」

「それはそうじゃが! 我を一人にしていいわけなかろう! 章親がおらぬと、ここで何かあっても、我は役立たずじゃぞ!」

 う、と章親が言葉に詰まった。
 そうだった。
 もしここで変事が起こって、魔﨡が暴走しても、章親がいないと止められない。

 だから章親もここに残ることになったのではなかったか。

「そ、そうだった……」

 元々章親一人で内裏に行ったところで、何かあっても対応できるはずもない。
 攻撃系は使えないのだから。

「しかも、やっぱりこっちが危ないかもっていう結論に達したんだった……」

 だから危険がないであろう内裏に、章親一人で出向くのだ。