【短】今日だけは君のもの


閉じたときと同じ速度で、ゆっくりと目を開く。


瞳に映ったのは、
冷めた顔をしてうつむく梅吉の姿。


「…梅――」


「なんか今さらって感じだよな」



心が割れるかと思った。

ぱらぱらと破片をまき散らし、あたしのココロが崩れていく。


梅吉が体を離したと同時に、あたしは立ち上がり、部屋を飛び出した。



夜道を走るあたしの脳裏に、さっきの言葉が何度もリピートした。


――『今さらって感じだよな』


わかってたのに。
あたし、一瞬、何を期待したの?


物欲しそうに目なんか閉じちゃって、絶対に引かれたよ。


恥ずかしい。

もう梅吉に合わす顔がない。

合わす顔が――


「あ……」


あたしは足を止めた。


そっか……。
別に、顔を合わす必要ないんだ。

今日だけの再会だったんだから。

明日からはまた元通り、
お互い別の生活があるんだから。


梅吉はただ、あたしにリベンジするために今日会いに来て。

梅吉にとってあたしは、“今さら”の存在で。


だから……