【短】今日だけは君のもの


「えっと……あたし、そろそろ帰ろっかな……!」


とっさに立ち上がろうとしたあたしの手を、梅吉がつかんだ。

その瞬間、電流が走ったみたいに体がしびれて、動けなくなった。


梅吉はまっすぐにあたしを見上げて言った。



「まだ帰るなよ」



命令口調にも腹がたたない。

そんなの吹っ飛ぶくらい、あたしの心臓が暴れてる。


そのとき、握られた手に力が加わった。

下に引っ張られ、あたしのお尻がソファについた。



部屋の空気が煮詰まったみたいに、息苦しい。

梅吉の顔が少しずつ近づいてきて……距離が縮むほどに苦しさは増す。


だけど、不思議と嫌じゃなかったんだ。

心のどこかでこうなることを望んでたから。


だって
今日だけだから……。

梅吉がこんな風に、あたしを求めてくれるのは、今日だけ。


そんなの辛すぎるから、
せめて未来につながるものが欲しいよ――



あたしはゆっくり目を閉じた。

梅吉の口づけを待って。


だけどしばらくたっても、梅吉の唇が触れることはなかった。