【短】今日だけは君のもの


「あのっ、そういえば梅吉のお父さんたちは? 帰り遅いね?」

「今日は田舎に帰ってるんだ。母さんや妹たちも一緒に」

「え……」


ということは、完全に男ひとりの部屋に、あたしは来てしまったってわけ?


意識したくないけど、やっぱりしちゃうよ。そんなこと聞いたら……。


「でもさ、梅吉はなんで一緒に帰らなかったの?」


あたしの言葉を聞くと、梅吉の顔が一瞬険しくなった。

何? あたし、機嫌そこねるようなこと言った?


けれどすぐ元の表情に戻ったから、気のせいだったのかもしれない。



梅吉はテレビのリモコンを取ると、電源を入れた。

画面から歌番組が流れた。


「あ、この曲なつかしー」


梅吉がそう言ったのは、昨年流行った卒業ソングだ。


「これ、あたしたちの卒業式で歌ったよね」

「そうそう。でも担任は選曲に反対だったんだよな。
“乾杯”にしろとか言ってさー」

「あの先生は長渕のファンだからしかたないよ」


他愛ない思い出話で盛り上がれば、気まずいムードも少しは晴れる。

あたしはなるべく沈黙がこないように、思いつく限りの話をした。

部活のことや、修学旅行のこと。


「――それでさ、着替えのとき、マキちゃんがいきなりあたしの胸触ってきてさー」


あっ……しまった。

いくら女同士のじゃれ合いの話とはいえ、この状況でこんな話題を持ち出すなんて、あたしはバカだ。