【短】今日だけは君のもの


「キレーだな。花火」


打ち上げ花火を見つめる、梅吉の横顔。


胸が苦しい。

夜空に一度だけ咲いて、散っていく花火みたいに
梅吉とこんな時間を過ごせるのも、今日だけだから。


もっと早く――中学のころに梅吉がこうしてくれてたら

今とは違うあたしたちが、いたのかな……。







花火大会が終わり、あたしたちは電車で帰ることにした。


花火を見た人たちが一斉に乗ったため車内は混雑し、
やっと地元の駅に降り立ったときには、あたしはひどい姿になっていた。


「うわぁ。浴衣がグチャグチャ」


せっかくきれいに着付けてもらった浴衣なのに、今はもう見るも無残な有り様。

帯はほとんど解けかけてるし、
下手に動いたら脱げてしまいそうだ。

どうしよう……。


「俺んちで着替えれば?」

「え?!」


梅吉の指が、目の前のマンションをさしていた。

あ、そっか。

梅吉んちって駅から徒歩1分なんだっけ。



ちょっと気が引けるけど……
緊急事態だし、仕方ないよね?