【短】今日だけは君のもの


体は細くても、やっぱり梅吉は男の子なんだ。

肩を抱かれてるだけで、人波からしっかり守られてるって感じるもん。


力強い手。


……これは、本当にあたしが知ってるあの梅吉?


態度の端々から伝わる優しさは、あの頃と変わらないけれど。

でも、あたしの言いなりになってばかりだった梅吉だとは、思えない。


――『杏ちゃんには今日、俺の言いなりになってもらうからね』


あたし……変だ。

今日の梅吉が強引なのは、あの約束があるからだってわかってるのに。

そもそもあんな約束、ふざけるなって最初は思ってたのに。


今は……

ちょっとだけ、このままでいてほしいなんて、思ってる。



梅吉、あたしね。

実は中学のとき、こんな風に梅吉が積極的になってくれたら…って思ってた。


だけどお人よしな梅吉は、自分の主張をほとんどしないから。

「ほんとにあたしといて楽しいのかな?」って不安で、わざとワガママばっかり言って、試すようなことしてたんだ。



でも本心では、梅吉の言葉を待ってたんだよ。

梅吉があたしに向かってきてくれるの、待ってたんだよ。


高校だって、梅吉の方から「一緒のとこ受けよう」って、言ってほしかったよ。