花火大会の会場はとにかく人だらけで、まっすぐ歩くことも難しい。


逆方向に進む人波に、体が流されそうになるあたしを、

「杏ちゃん!」

梅吉が、グイッと引き寄せた。


「俺から離れちゃダメじゃん」

「……っ」


やばい。
絶対いま、顔赤い。

引き寄せられた勢いで、あたしたちの体は密着してる。


「だ、だから人ごみは嫌だって言ったでしょ!」

「しょうがないなー」


ほら、と言って肘を突き出してくる梅吉。


これは、つまり……、
腕につかまれって意味だよね?


あたしはプイっとそっぽを向いた。


「なんであたしが、あんたなんかにつかまらなきゃいけないのよっ」

「心配なんだよ」

「ぜーったい、やだ」

「はいはい、わかったよ」


梅吉の返事にあたしは内心ホッとした。


でもそれは束の間だったんだ。

右側を歩く梅吉から、いきなり腕が伸びてきて、肩をつかまれたから。


さすがにこれには、憎まれ口すら、とっさに出なくて

ごまかしようがないくらい赤くなった顔を、あたしはせめて見られないように下を向く。