そんな可愛く拗ねてもいいませんから…

綾乃さんを無視して着替え、身だしなみを整えホールに向かった。

そこには、仁がいて私の代わりに朝番の仕事をしてくれていた。

「店長、遅れてすみませんでした」

「初めての遅刻だし、今日は特別に
やっておいた。これからは気をつけろよ」

「……ありがとうございます」

わざと首をコキコキ鳴らし、恩着せがましく言う仁は、いつものように意地悪い笑みを浮かべる。

遅れたのは私のせいじゃないのに、屈辱的だ。

ムカつく…

むすっと唇を尖らせていたらしい私の唇を摘む仁の指先。

「凛…綾乃にも礼を言っておけよ」

はい?

「俺が来た時には、綾乃が朝番の準備をしていたんだよ」

なぜに…
だって、さっきの綾乃さん私服だったよ。

もごもごする唇からやっと離してくれた仁の指先が、おでこをデコピンしていく。

「諦めろ…お袋達にもバレてる」

うわーーー

綾乃さんにキスマークを見られただけでも恥ずかしいのに、オーナー夫妻にもなんて…穴があったら隠れたいよ。

「……ど、どうして(バレてるの?)」

「夜、お前をお姫様だっこして上がっていくのを見てたらしい」