______3月のある日。



俺とあいつは入学式の日ではじめましてじゃない。


そう、初めて会ったのは……。


入試試験当日。


会場であいつを見た瞬間、俺は恋をした。


俺を上目づかいで見上げ、おろおろしているやつ。


その瞳はうるんで揺れていて。


どんだけ俺が怖いんだよ、そう思った。






あいつは、提出する資料やら何やらが入った茶封筒を鞄から出すとき、一緒に生徒手帳も落としたんだ。


それに気づかないまま歩いて行ってしまう。


だから、仕方なくそれを拾って渡そうとした。


すでに遠くの方へ歩いていて、急がなくちゃと思った。


名前を呼べば一発だったと思う。


だけど、“神長倉夢希”。その名前を俺は呼ぶことができなかった。



「……んだよ、この漢字。見たことねぇ」



いわゆるキラキラネームか?


いや、下の名前なんかより、名字だ。


この名字は生まれて初めて見た。