ふらふら。ゆらゆら。


あたしのものにはなってくれず、気まぐれにやって来てはいつの間にかにいなくなる。


あちらこちらへ漂って、あたしの恋心からするりと逃げていく。


この人はそういうヒトだ。









「織ちゃーん。今日泊まらしてー」




にっこにこの笑顔で扉の前に立っていたのは安城で、まあ予想通りの展開ではあったのだけれど頭が痛くなった。


深夜0時。あたしはとっくに夢の中にいたはずなのに、近所迷惑とかを全く考えていないこの男の鳴らすけたたましいインターホンの音で目を覚まされた1分前。




「あ、ちょっと!」




呆れて物も言えなくなっていたあたしを置いて、安城はするりと家の中に侵入してくる。


さっさと靴を脱ぎ捨てると、おぼつかない足取りであたしのベッドに横になった。




「あんた相当酔ってるな!? 一体どんだけ飲んだらそうなる……!」


「酔ってマセーン」


「その発言自体酔っ払いだからね。酒臭いからすぐ分かったよ」


「だってホントに酔ってないもーん」




ふにゃりと笑う安城を睨みつけて、彼が残したベッドの上の僅かなスペースに腰掛ける。


何がそんなに嬉しいんだか。


さらりとあたしの髪を撫ぜ、甘えるように手を握ってきた安城は猫みたいだと思った。


人懐こい猫。


犬みたいに尻尾を振ってあたしのところへ来るくせに、その実奔放でちっともあたしに飼わせてはくれない。