「…覚えてるよ。桜、きれいだったね。」


「はい、満開でした。

私、そのときに先輩に惚れたんですよ?」


「えっ…」


正直、あの日の僕に惚れる要素はなかったように思う。


「先輩が、『ないしょね?』って微笑んでくれたとき、なんだか、あったかい人だなって思ったんです。

私も、この人みたいに、素敵な笑顔で笑える人になりたいなって思ったんです。

先輩、もう一度言わせてください。

私、竜先輩でも、同級生でもなくって、先輩が好きです。

響先輩だけを一心に思ってきました。

付き合ってください。」



正直、鈴菜はかわいい。

ころころとかわる表情。
細くて、華奢なからだ。
なにより、いつも笑顔だ。


きっとモテているだろう。


でも、


「…ごめん。すごく嬉しいけど…ごめん。」


「………わかってました。」


「え、」


「先輩のanswer。」


発音よく『答え』と言い、にかっと笑った鈴菜はいつもの僕の活発な後輩だ。


「…ごめ」


言い終わらないうちに、鈴菜が遮った。


「謝らないでください。

わかった上での告白でしたから、いいんです。

じゃぁ、 そろそろ帰りますね。
わざわざありがとうございました。」


そう言って手を振って歩いてゆく彼女を僕を見つめることしかできなかった。