十二月の寒さが街を覆う夜。
 店内には、二人だけだった。一人は恰幅がよく、全体的に髪の毛の量が不足しているえびす顔の男性で''喫茶ちょこっと一息'' 通称''ちょこ''のマスター。もう一人はカウンター席に座っている女性だった。
 三十代前半とみられる女性だった。肩より少し先まで伸びた長い黒髪をストレートにまとめており、小顔で狐のように細長い。くっきりとしたややつり気味の瞳にまっすぐな鼻、ぷっくりとした唇はほとんど化粧を施していないがその顔は、女性の美しさを際立たせていた。
 ネイビー色のスーツにインナーは白地のシャツで下はこれもネイビーのハイヒールを
履いている。みるからにキャリアウーマンと伺えた。
 女性は、注文し出されたホットコーヒーにはほとんど口をつけず俯き加減で頬を左手に預けていた。その表情は、張りつめていて硬い。 
 マスターは、不安に駆られた。
 ''味、気にいらないんかな?''
 ''分量間違えた?''
 ''コーヒーのいれかた全然なってないとか?''
 ''そもそも、店があかん!?''
 ……きりないわ-。
 そもそも、趣味で始めた店であり専門にしてたり、こだわりの器具やコーヒー豆を揃える店にしてみれば、自分とこはかなり邪道であると思っていた。
 しかし、目の前の女性は、どうやら別に問題を抱えているようだった。
 そうに違いなかった。