ふ、と息を漏らせば。
篠原柚姫が眉間にしわを寄せて、口を歪めて、怒っているような、でも怒りきれていない表情をする。
そんな顔へ最後まで笑顔を向けて、彼女が文句の言葉を口にする前に、私はくるり、今度こそ彼女に背を向けた。
一瞬伸ばされた彼女の手が、スッと戻る。
そんな気配を背後に感じながら、背筋を伸ばして屋上の扉へ目を向けた。
──タン。
一歩、屋上の扉へ向かって踏み出した足が、沢山のことを「思い出」にした気がした。
ほら、やっぱり。
私も甘くなったけど、あんたもたいがい甘くなったよ。
プライドの塊で、こんな風にしたら前なら絶対怒ったくせに。
「ふざけないで」ってきっと嫌悪感丸出しで言ったくせに。
──「許さない」って、言われなくて良かったって、ほんの少し思っちゃってるんだ。
こんなことを言ったら、あんたは絶対そんなわけないって不服な顔をするだろうけど。
私は、今のあんたの方が、嫌いじゃないよ。


