それから、わざと冷たい顔を作って。
くるりと振り返って目線をバチリとぶつければ、篠原柚姫の顔がどこか不満そうに、でもほんの少し弱気に強張った。
…もう一つわかったこと、篠原柚姫はきっと人一倍、人が苦手だ。
前はこんなにわかりやすい、作っていない弱い表情を、人に見せたりしなかったのに。
きっと本人は、顔に出てるなんて気づいていないんだろうけど。
そんな篠原柚姫の、私を警戒するような顔を冷たい表情のまま見つめて数秒。
──私は冷たかった顔をふっと緩めて。
代わりに思いきり、ニッて、笑顔を向けた。
目の前の彼女が目を見開く。
軽やかな春の風が、私たちの髪の毛をふわりとまた揺らして行った。
────私のこういうところが嫌いなんでしょう?知ってるよ。
でもね、あんたに嫌われるのなんてなんでもないし、自分に嘘をつくのは、嫌いだから。
許してないけど、許してないんだけど、「許す」も「許さない」も、言えないから。
矛盾する心の中を無理やり言葉にすることはしないで、思いっきり、笑顔を向けた。
これが今の私の気持ちには一番しっくりくると思ったから。


