けれど、その言葉はやっぱりなかなか言い出せないみたいで。
篠原柚姫の口が、開いてはぎゅっと結んでを繰り返す。
けれど、そんなのも数回。
篠原柚姫が、ぐっと、震えるように息を吸った。
「許してもらえるなんて、思ってない。
……ごめん、なさい」
震える声で。
震えてたけど。
わたしから目線をそらさずに、そう言った。
それから、私に頭を下げた。
深く深く、何かを終わりにするみたいに。
それでいて、自分のやったことを忘れないように、深く深く刻みつけるみたいに。
一際強く風が吹いて、私たちを揺らして、心のどこかで小さく残っていたもやもやが、スッと抜けていく感じがした。
──彼女のしたことは一生許せないし、許したくないし、彼女も許して欲しいとは思ってはいない。
けれどきっと、誰だって、彼女みたいに周りも何もかも見えなくなっちゃうことってある。
この世界で、多分、嘘をつかない人はいない。
最初についたのは、きっと、小さな嘘だった。
──彼女に、『いいよ』も『許さない』も言わずに、私はくるりと背を向けて歩き出した。


