足を踏み入れれば、心地いいくらいの風が私の髪の毛を揺らして。
ものすごく懐かしく感じるその場所にほんの少し笑顔をこぼしそうになってしまった。
前を見据えて、張っていた気持ちがうっすらと、緩む。
…来ることを、迷う必要なんてなかったか。
私を見据える彼女の、前とは違う、独りよがりじゃない、作られてない強い瞳。
重なって、なんだか泣きたくなってしまった。
彼女を叩いてから、一年と少し。
たかが一年、されど一年、だ。
私はひどく短く感じたけれど、彼女にとってはすごくすごく長かったんだろうなって思った。
だって、驚くくらい彼女は。
こんなにも彼女は、変わっている。
けれどきっと、ここで優しくなんてしたら彼女は私をもっと大嫌いになるだろうからそれはやめておく。
彼女の、前よりもだいぶ暗くなった髪の毛が風でふわりと浮いて。
「久しぶりだね、何の用?…篠原柚姫」
少しの間のあとそういえば、篠原柚姫はグッと唇に力を入れた。
その動作と、顔と、目で、なんとなく察する。
私と青嵐のみんなが傷ついたこと無駄じゃなかった、無駄じゃなかったね。
一年と少し、時間が経って。
やっと、篠原柚姫って人物がちゃんとわかった気がした。
きっと彼女は、最初から、あんな性格だったわけじゃない。
ううん、最初からあんな性格だったとしても。
──間違えていることに気づければ、変わりたいと思えれば、そこにちょっとの勇気と背中を押す何かがあれば、誰かがいれば。
どれだけ大変だったとしても、誰だって、変われるんだと思う。
そして彼女は、篠原柚姫は。
この一年、きっと沢山悩んで、沢山泣いたんだろう。
…なんて、偉そうに言えないし、何にも知らないけど。
一つ言えるならば、やっぱり噂は嘘だろうってことと。
間違えじゃなければ。
一年かけてやっと、“その言葉”を私に言って、ちゃんと、変わるために私をココに呼んだ。


