なのに、あの日、あの夏の夕方、琉月は死んだ。
自宅のプールに浮かんでいるのを花が見つけたのだ。
琉月はまだ泳げないでいた為、一人でプールに行く事も近づく事もなかった。
夏月の通う私立の中等部も夏休みで、父親以外は自宅に居た。
昼前に夏月と琉月は二人でプールで遊んだ。
泳げない琉月は、夏月にしがみつきキャッキャキャッキャと楽しそうにしてる声は室内に居る継母にも聞こえていた。
昼食の時間になり花が呼びに来て二人はプールを出た。
その後着替えを済まし昼食を済ませると、夏月は自分の部屋に戻った。
それが午後二時を過ぎた頃だった。
自室に戻ると夏月は教科書を開け机に向かった。
少ししてから、プールでの遊び疲れかいつの間にか寝てしまった夏月は、窓の外から聞こえた花の悲鳴で目が覚めた。
何事かと飛び起きると、直様窓から顔を出した。
窓から覗くと下にプールが広がる。
その真ん中に琉月が仰向けに浮かび、真っ白なワンピースは天使が羽を広げているかのように広がり、太陽がプールごと琉月を橙色に染めていた。
「いやぁぁぁ、るかぁ!!」
頭上から聞こえた夏月の声に花が顔を上げた。
「お嬢様、来ては行けません!!」
そう言われたが夏月はもう、部屋を飛び出し階段を駆け下りた。
廊下を走り、エントランスを抜け裸足のまま飛び出した。
プールサイドに行くと花の悲鳴で集まった、他の使用人と、崩れ泣く継母が居た。
今にもプールに飛び込もうとする継母の肩を強く抱き、背中を摩る花が継母の肩越しに夏月を見た。
「お嬢様…。」
「る…か……。」
その声に気付いた継母が夏月の顔を見た。
その顔は見た事ない程に崩れ涙でグチャグチャだった。
「夏月ちゃ…ん。」
這うように夏月の元に行くと夏月を抱きしめた。
「お母様…なんで琉月…。」
黙ったまま継母は夏月を、ただ抱きしめた。


程なくして救急車や警察がやって来た。
警察の人の手によってプールから上げられた琉月は、救急隊員に渡されると隊員は琉月を抱えたまま救急車に乗り込んだ。
継母は泣き叫びながら、琉月の体に触れようとする。
それを警察官が数人で止めた。
後ろから花に抱きしめられながら夏月は遠目に救急車見ていた。
集まった野次馬の人並みを掻き分けて父親が、息を切らして帰ってきた。
父親は琉月の姿を見ると、呆然と立ち尽くした。
そして、ゆっくりと動き出すと夏月を見つけ、フラフラと夏月の元に歩み進めた。
「夏月…何があった?」
夏月はボロボロと流れ出る涙を止める事が出来ずにいた。
それは壊れた蛇口のようだった。
「旦那様…。」
花が言葉を発せない夏月の代わりに口を開いた。
「花…何があったんだ!?」
夏月に聞くよりも語尾が強くなった。
そのやり取りを遮る様に、一人の救急隊員が父親に声を掛けた。

「あの、こちらの旦那さんですか?」
「あっはい…。」
「病院に向かいます。車に乗ってください。」
「わかりました。花、夏月を頼んだぞ。」
「かしこまりました。」
「私も行きます!」
夏月は花の手を振りほどき父親に駆け寄った。
父親は少し屈むと夏月の目を見て言った。
「夏月はここに居るんだ。父さんが琉月について行く。だから夏月はお母さんのそばに居てやってくれ。いいな?」
「…わかりました。」
夏月の言葉聞き終える前に父親は振り返ると歩き出した。
そっと後ろから花が夏月をまた、抱きしめた。
「お嬢様、お家に入りましょう。」
「うん…。」