夏の月

私の家族は、あの日家族ではなくなった。

この夏14歳になる最上 夏月は歳の離れた妹がいる。
夏月が6歳の頃、夏月の母親は持病の心臓病が悪化し、この世を去った。
父親は母の死から、たった半年で再婚をした。
その再婚の相手はいつも仕事の時、父親の横にいて、夏月にとっても優しいお姉ちゃんの様な存在の人だった。
実際、入退院を繰り返していた母親のかわりをしていたところもあった。
継母といっても、その頃の夏月にとって何の違和感もなく家にお姉ちゃんがやって来たにすぎなかった。
その2年後、妹が産まれた。

14歳の夏月は年齢はまだ子供だけど、その容姿は大人びて落ち着いた印象があった。
それよりも美人とは夏月の事だと言えるほどの整った顔立ちで、大人も子供も見惚れてしまう程だった。
その容姿は亡くなった母親に、日に日に似ていく様だった。
そんな夏月を妹の琉月は心から慕っており、
「お姉ちゃん待って!」
そう言っていつも夏月の後を追い掛けていた。
そんな琉月を夏月も、また可愛いと思っていた。
近所では仲の良い姉妹で有名な程仲が良かった。
父親は祖父が大病院の理事長である病院で医院長をしていた。
母親はそんな祖父を父にもつ昔っからのお嬢様で、専業主婦だった。
とはいっても名ばかりで、家事の全般は住み込みの女性がしていた。
母親が亡くなってからは、継母が母親になったのだけれど、継母もまた家事はお手伝いさんにさせていた。
たまに何を思ったのか気が向いた時だけ料理をしては楽しんでいた。
琉月が生まれるまで夏月は継母が、キッチンに立った姿を見た事がない。
殆ど毎日の様に両親は、あの人のパーティーが…次はあの人の…と、家には居なかった。
夏月の遊び相手はお手伝いさんの花だけだった。
花は少し皺がある手でいつも、夏月の頭を優しく撫でてくれた。
初めて絵を描いた時も、上手く歌えた時も、友達と喧嘩して帰って来た時も。
夏月にとって花が母親の様な存在だった。
けれど琉月が生まれてから継母は家に居ることが多くなった。
父親は相も変わらず忙し人ではあったけれど、それでもそんな父親も家に居る時間は夏月が幼い時より多くなった。
花は「旦那様と奥様がいらして、良かったですね。」と夏月に言った。
けれど、その言葉の意味が夏月にはわからなかった。
両親が家に居ることで花と遊ぶ事は愚か、話すことも少なくなったからだ。
元々、母親が子供の頃からのお手伝いさんだった花を、継母は居心地が悪いのか用事がある以外距離をとっていた。
その為、呼ばれない限りそばに来ない。
仕事がある時は見当たらないし、いたとしてもいつも部屋の隅に立っている。
それだけが夏月にとっては寂しかった。

けれど嫌なことばかりではなかった。
8歳も離れた妹は本当に可愛くて仕方がなかった。
用事で両親が居ない時は、花よりも率先して琉月の面倒をみた。
花に色んな事を聞いた。
抱っこの仕方。
ミルクのあげ方。
オムツの替え方。
継母は何も教えてはくれず、何もさせてくれなかったから一つ一つが楽しく嬉しかった。
妹の全ての仕草が可愛くて仕方がなく、大きくなっていく琉月を見ているのが夏月の幸せでもあった。