「ちょっと前のめりだね」

「そうなんです、分かっているんですけど。指が動かなくて」

彼女は耳もよく、リズム感も悪くない。だったら何が原因?

「ごめん、もう一回吹いてみて」

彼女はためらうことなく同じフレーズを吹いた。

やっぱり前のめり……あれ?

「ちょっとこの親指の位置、もう少しこっちに……そうそう。そしたらもう少し指の力抜けないかな」

彼女の指使いは、昔から少し力が入りすぎている気がしていたのだ。

「なるほど、やってみます」

力が抜ければ滑らかに動かせるんじゃないかな。

〜♪〜♪

「うんうん、ちょっといいかも」

「ほんとだ!親指に力を入れると動かしやすい気がします」

何度か指を動かせてみせる彼女。

「慣れたらもっと上手くなるよきっと。自分の弱点が分かるってことは、ちゃんと自分の音を聴けてる証拠だしね」

「はい!ありがとうございます」

晴れやかな彼女の表情を見て、私も嬉しくなる。